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【シベリア抑留問題】

 

 

関東軍の降伏

 

昭和二十年八月十九日、関東軍総参謀長秦彦三郎中将は、作戦主任参謀瀬島龍三中佐、ハルピン在勤の宮川日本総領事を帯同し、ジャリコーウォのソ連極東第一方面軍司令部において、極東軍総司令官ワシレフスキー元帥を首班とするソ連軍首脳と停戦交渉を行った。秦中将は関東軍の一般状況を説明した後、特に「日本軍の名誉を尊重されたいこと」「居留民の保護に万全を期せられたいこと」の二件を強く申し入れ、ソ連側の快諾を得、この日相互の間に次のような協定が成立した。

 

1、   武装解除に際し都市等の権力も一切ソ連軍に引き渡す。

2、   後方補給のため、局地的のものを除き、軍隊、軍需品の大なる移動は行わない。

3、   日本軍の名誉を重んじ、軍人に階級章を付し、また帯刀(剣)を許可するほか、武装解除後も将官に副官を付し、かつ将校全部に当番兵の使用を認める。

4、   満内の要地に対しては、ソ軍の進駐まで日本軍が警備を担任し、ソ軍の進出後日本軍は自体の武装を解除する。

5、   関東軍総司令部は全軍隊の武装解除後解体する。この間、通信機関、連絡のための飛行機、自動車の使用は支障なく、また要求ある場合ソ軍の飛行機を貸与する。

6、   武装解除後の日本軍隊の給養は自体において実施する。食糧運搬の自動車使用及び給養定額は概して現在どおりとする。

7、   その他(筆者略)

 

右に見るごとく、ソ軍の首脳の交渉態度は極めて理解があり、協定も満足すべきものであった。しかし現実に我が軍に接触したソ軍は右協定を一顧だもせず、各方面とも無統制に武装解除を実施し、殊に交通通信を寸断し、かつ入ソのための作業大隊編成の際早期に在来の我が各編合部隊の指揮組織を破壊したので、関東軍はその意図した秩序ある停戦、武装解除が不可能となり、部隊の掌握さえも困難になったほか、殊にソ軍側において日本軍の手による戦場地域の整理を頑強に否認したため、死傷者の収容加療、行方不明者の捜索その他戦闘後の後始末は全く実施することができなかった。(以上は戦史叢書関東軍〈2〉466〜467ページより引用)

 

 

ささやかれる日ソ秘密協定説

 

ソ連軍が軍民合わせて約50万以上の日本人をシベリアの凍土に連行し、劣悪な条件下、苛酷な労働を強制し、多くの日本人を死に至らしめたことは、ポツダム宣言9条「日本国軍隊は、完全に武装を解除せられたる後各自の家庭に復帰し、平和的且生産的の生活を営むの機会を得しめらるべし。」違反、ハーグ陸戦法規(6〜19条)違反であり、天人共に許されざる行為である。

しかし戦後、関東軍司令部が率先して将兵を労働者としてソ連軍に提供したのではないかという疑惑がささやかれている。

 全国戦後強制抑留補償要求推進協議会事務局長(全抑協)の高木健太郎氏は次のように述べている。

 

「私たち兵隊は、ソ連に抑留され、酷寒と粗食と重労働で筆舌に尽くしがたい苦労をなめてきました。現にこのわたしも、シベリアの厳寒で、夏期のコルホーズの炎熱の叢の中で、重労働を強制されました。わたしの作業大隊には千人の抑留者がいたのに、強制労働と飢えと栄養失調で半数以上がバタバタ死んでいきました。死んだ仲間を丸裸にして穴を掘って埋めましたよ…。

一説では、われわれ兵隊がシベリアに連行されたのは、終戦のときに国家賠償として連れていかれたというんです。うちの会のある理事は、瀬島さんたちがソ連との話し合いでそれを認めた疑いがある、といっています。瀬島さん、あなたはソ連側との停戦協定でどのような話し合いをしたのか、一言だけでいいからわれわれに話してください。それがわれわれ抑留者全員の願いなんです。でも瀬島さんはこの件に関してはいまだに一言も話していないんです。」

 

全抑協は、日ソ秘密協定説の根拠として、近衛が作成した「対ソ和平交渉に関する要綱、一九四五年」の「(三)陸海空軍々備、ロ、海外にある軍隊は現地に於て復員し内地に帰還せしむることに努むるも止むを得ざれば当分その若干を現地に残留せしむることに同意す。」と「(四)賠償及び其の他、イ、賠償として一部の労力を提供することには同意す。」を挙げ、彼等は上記の「日ソ停戦協定」中の省略されている第七条が、日ソ秘密協定にあたるのではないかと推測している…。

だが全抑協の切なる願いも虚しく、瀬島龍三は、シベリア抑留問題を含め大東亜戦争の真実を語ろうとはせず、一九九〇年十二月には、ソ連側要人と密会し、「すでに戦後四十五年を経ている。大半の日本人捕虜は傷も癒えた。いまさら資料公開で波風をたてないでほしい。」と申し入れたのである…。

 

 

瀬島龍三よ真実を語れ

 

1945年8月20日、ワシレフスキーは、モスクワに、

 

 「関東軍参謀長秦中将は私ワシレフスキー元帥に対して、満州にいる日本軍と日本人ができるだけ早くソ連軍の保護下に置かれるよう、ソ連軍の満州全域の占領を急ぐよう要請し、同時に、現地の秩序を保ち企業や財産を守るため、ソ連到着まで武装解除を延期されたいと陳情した。」

 

と打電した。また自身の著書「全生涯の出来事」の中で、

 

「われわれは降伏の順序について要求を示し、捕虜受けいれの地点を示した。ヒポサブロー中将はすべての条件を受けいれた。

 

と回想し、秦とその随員は精神的にまいっていて卑屈でさえあった、と書き残している…。

8月21日、関東軍参謀部は、

 

 「居留民及疎開民の処理全般の趣旨は成るべく大陸における民族再興の素地を残す他は内地に送還す。武装解除後の軍人の処理全般の趣旨は希望者はなるべく大陸に其の他は内地に帰還せしむ。兵は現地に於いて召集解除若しくは除隊せしめ在満の在郷軍人及び在満徴集現役兵は努めて満州の現職場に復帰せしむ。開拓団は全員努めて原開拓団に帰還開拓に従事せしむ。」

 

と決定し、ソ連軍に支配される満州にできるだけ多くの軍人居留民を残留させようと企図したのである。結果、満州における大惨劇が引き起こされたのである…。

 

所長が推測するに、秦彦三郎中将と瀬島龍三中佐は、参謀次長時代の秦の直属の部下であった種村佐孝大佐ら参謀本部第20班(戦争指導班、参謀次長直轄)と陸軍省軍務課の主務者が作成した「昭和十九年八月八日今後採るべき戦争指導の大綱に基く対外政略指導要領(案)三2(イ)A」に基づき、種村大佐の「昭和二十年四月二十九日今後の対ソ施策に対する意見」の如く、ソ連側の言いなり放題となり、両人は進んで関東軍将兵や邦人居留民を労働者としてソ連に提供したのではないか。だから戦史叢書大本営陸軍部9、10は両資料を隠蔽しているのではないか。

 

シベリア捕虜収容所において、瀬島龍三は、天皇制批判を行い、将校団の民主化運動(共産主義洗脳)を推進し、将校達に「赤いナポレオン」とささやかれていた…。

全抑協は、瀬島に、

 

「あなたは、種村佐孝大佐が作成した今後採るべき戦争指導の大綱に基く対外政略指導要領(案)と今後の対ソ施策に対する意見を知っているか。あなたと秦彦三郎は、ソ連を全面的に利導し、ソ連側の言いなり放題になって目をつぶったのではないか」

 

と尋ねるべきである。

 もし瀬島龍三が、動揺あるいは沈黙したならば、所長の推測は正しく、瀬島は、敗戦革命を目論んだ近衛上奏文中の「軍部の共産分子」であり、ラストボロフ証言通り、モスクワの第7006収容所で種村と共にソ連からスパイ訓練を受けた共産主義の軍人であろう…。

 

 

日本に賠償義務はない

 

なお上記の様に、関東軍はソ連軍によって武装解除され、武器弾薬その他軍需物資を没収され、支那派遣軍総司令官岡村寧次大将は、

 

 「対支支援の強化に関しては、真に支那民族の心を把握するを主眼とするも先ず重慶中央政権の統一を容易ならしめ、中国の復興建設に協力するものとす。重慶延安の関係は固より支那側自身にて処理すべきものなるも、延安側にして抗日侮日の態度を持する場合においては断固之を膺懲す。支那に交付すべき兵器、弾薬、軍需品等は統帥命令に基づき指示する時期および場所において、完全円滑に支那側に交付し、以て進んで中央政権の武力の充実に寄与す。」

 

と定めた対支処理要綱を起案し、派遣軍の武器弾薬を中華民国軍に供与しており、現在、日中間の問題となっている支那の残留日本製化学砲弾は、ソ連軍ないしソ連軍から武器弾薬を供給された中国共産党軍、あるいは中華民国軍によって遺棄されたものである。

 

主要参考文献

 

終戦工作の記録(波多野澄雄編/講談社文庫)

瀬島龍三参謀の昭和史(保阪正康著/文春文庫)

 

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